令和5年(受)第1583号 発信者情報開示等請求事件
令和6年12月23日 第二小法廷判決
https://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/648/093648_hanrei.pdf
今回のテーマは、インターネット上での権利侵害と発信者情報開示請求についてです。
令和6年12月23日に最高裁で判決が出た、インスタグラムの投稿を巡る発信者情報開示請求事件を詳しく解説します。
1. 事件の概要:
インスタグラム投稿による権利侵害
この事件は、被上告人(ここではAさんとします)が、インスタグラム上で氏名不詳者(以下「本件投稿者」)によって無断で写真を掲載され、人格的利益を侵害されたと主張したことが発端です。
Aさんは、この投稿者に対して損害賠償請求訴訟を提起する準備をしていました。
問題となったのは、本件アカウントへのログインのために行われた8回の通信です。
Aさんは、インターネット接続サービスを提供した経由プロバイダである上告人(ここではプロバイダBとします)に対し、特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限及び発信者情報の開示に関する法律(以下「法」といいます。)IPアドレスや通信日時などの発信者情報の開示を求めました。
2. 争点
改正法の適用と「侵害関連通信」の該当性
この裁判では、大きく2つの点が争われました。
• 改正法の適用: 権利侵害を生じさせた投稿とログインが、改正法の施行前に行われた場合、改正後の法律が適用されるのか。
• 「侵害関連通信」の該当性: 問題となったログインが、改正法が定める**「侵害関連通信」**に該当するのか。
3. 裁判所の判断
改正法の適用と関連性の判断基準
裁判所は、まず改正法について、施行前にされた投稿やログインにも適用されると判断しました。
次に、「侵害関連通信」について、裁判所は以下の重要な判断基準を示しました。
• 関連性の程度と開示の必要性: 個々のログイン通信と権利侵害の疑いのある情報の送信との関連性の程度と、当該ログイン通信に係る情報の開示を求める必要性を総合的に考慮して、「侵害関連通信」に該当するかどうかを判断すべき。
• 時間的近接性: 権利侵害の疑いのある情報の送信と最も時間的に近接するログイン通信は、「侵害関連通信」に該当する可能性が高い。
• 介在ログインの存在: 権利侵害の疑いのある情報の送信と問題のログイン通信の間に、**別のログイン(介在ログイン)**が存在する場合、その介在ログインの情報から発信者を特定することが困難であれば、問題のログイン通信の開示を求める必要性を基礎付ける事情になると判断しました。
本件では、本件投稿①~④の21日後に行われた本件ログイン②が、最も時間的に近接しており、介在ログインに対応するものを特定できておらず、発信者を特定することが困難であることから、本件ログイン②は「侵害関連通信」に該当すると判断しました。
しかし、本件ログイン①、③~⑧については、本件ログイン②と比較して時間的に近接しておらず、開示を求める必要性を基礎付ける事情がないと判断しました。
4. 結論
一部開示を認める
この判断に基づき、裁判所は以下の結論を出しました。
•本件ログイン②に係る情報(契約者の氏名、住所、電話番号、メールアドレス)の開示は認容。
•本件ログイン①、③~⑧に係る情報(IPアドレス、接続日時、契約者に関する情報)の開示は認めない。
5. この判例から学べること
権利侵害とプライバシー保護のバランス
この判例から、私たちは以下の重要なポイントを学ぶことができます。
• 発信者情報開示請求は、インターネット上での権利侵害に対する重要な救済手段である。
• しかし、発信者のプライバシー、表現の自由、通信の秘密も保護されなければならない。
• 権利侵害の疑いのある情報の送信とログインとの関連性は、時間的な近接性だけでなく、他の事情も考慮して慎重に判断される。
• ログイン情報の開示は、権利侵害の疑いのある情報の発信者を特定するために必要不可欠な場合に限定される。
今回の判例は、権利侵害を受けた被害者の救済と、発信者のプライバシー保護のバランスをどのように取るべきかを示す重要な事例と言えるでしょう。
6. まとめ
今回は、インスタグラムの投稿を巡る発信者情報開示請求事件を解説しました。
この判例は、SNSを利用するすべての人にとって重要な意味を持ちます。
インターネット上での情報発信は、自由で開かれたものでなければなりませんが、他者の権利を侵害してはなりません。
今回の判例を参考に、インターネットを安全に、そして責任を持って利用しましょう。