
判例
令和6年8月8日判決言渡 同日原本領収 裁判所書記官
令和5年(ワ)第5968号 地位確認等請求事件
口頭弁論終結日 令和6年7月2日
名古屋地方裁判所民事第1部
裁 判 官 山田 亜湖
https://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/392/093392_hanrei.pdf
盗撮と解雇
名古屋地方裁判所では、一見平凡な郵便局員の男が、実は深い闇を抱えていた事件の判決が下された。
事件の主役は、長年郵便局に勤めるベテラン社員の原告。彼は、令和5年7月12日、通勤途中の地下鉄車内で、禁断の行為に手を染めてしまった。
それは、小型カメラを仕込んだリュックサックを女性の足元に置き、スカート内を盗撮しようとしたのだ。
この卑劣な行為は、すぐに発覚し、原告は愛知県迷惑行為防止条例違反で逮捕された。
翌日釈放されたものの、彼の運命は大きく狂い始める。

原告は、被害者と示談し、被害届は取り下げられたものの、勤務先の被告である郵便局は、この事件を重く見て、9月21日、懲戒解雇処分を下した。
原告は、この処分に納得がいかず、労働契約上の地位確認を求め、未払い賃金と賞与の支払いを求めて、名古屋地方裁判所に訴えを起こした。

法廷では、原告と被告の主張が真っ向から対立した。
被告側は、原告の行為は会社の信用を著しく傷つけるものであり、懲戒解雇は正当であると主張した。
原告は管理職であり、部下を指導する立場にあったにもかかわらず、盗撮という卑劣な行為を繰り返していた点を特に問題視した。
一方、原告側は、盗撮行為は認めつつも、示談が成立し、不起訴処分にもなっている点を挙げ、懲戒解雇は重すぎると反論した。
報道もされておらず、会社に与えた損害は軽微であると主張した。
裁判所は、双方の主張を検討した結果、原告側の訴えを一部認める判決を下した。
裁判所は、原告の行為は会社の信用を傷つけるものであり、懲戒の対象となることは認めた。
しかし、懲戒解雇は重すぎると判断し、無効とした。 その理由として、原告が示談し、不起訴処分になっていること、報道がなく、会社への影響が限定的であることなどを挙げた。
判決は、原告の労働契約上の地位を認め、解雇日以降の賃金の支払いを命じた。

現代社会が抱える問題
この判決は、盗撮という行為の重大さを改めて示すとともに、懲戒処分における相当性の判断の難しさを浮き彫りにしたと言えるだろう。
原告は、法廷で、深く反省の言葉を口にしたという。
しかし、失った信頼を取り戻す道のりは険しい。彼の心の闇は、一体どこから生まれたのか?
そして、彼はこれからどうやって生きていくのか?
事件の裏側には、現代社会が抱える問題が潜んでいるようにも思える。
判例分析:懲戒解雇の有効性
この判例は、従業員の職務外における違法行為に対する懲戒解雇の有効性が争われた事例です。原告である郵便局員は、通勤途中の電車内でスカート内を盗撮しようとした行為により、被告である郵便局から懲戒解雇されました。原告は、この懲戒解雇が無効であるとして、労働契約上の地位確認等を求めて訴訟を提起しました。
裁判所は、原告の行為は会社の信用を傷つけるものであり、懲戒の対象となり得ることを認めました。[1]
しかし、懲戒解雇の有効性については、以下の点を考慮し、無効と判断しました。[2-4]
- 本件行為の違法性の程度:当時の法律では、原告の行為は条例違反に過ぎず、刑事罰の対象となる行為としては軽微であったこと。
- 被害者と示談が成立し、不起訴処分になっていること。
- 懲戒規程上、刑事事件で有罪判決を受けた場合と比較して、会社への影響は低いと類型化されていること。
- 会社への影響:本件行為及び逮捕について報道がなく、社会的に周知されなかったこと。
- 原告は逮捕の翌日には釈放され、通常の勤務に復帰できる状態であったこと。
- 本件行為が会社に悪影響を及ぼしたと評価できる具体的な事実関係がないこと。
- 原告の事情:過去に懲戒処分歴がないこと。
これらの事情を総合的に判断し、裁判所は本件懲戒解雇は懲戒処分としての相当性を欠き、懲戒権を濫用したものとして無効であると結論付けました。[4]
本判例は、従業員の私生活上の非違行為に対する懲戒解雇の有効性を判断する際に、以下の要素を総合的に考慮する必要があることを示唆しています。
- 違法行為の内容と程度
- 会社の信用や業務への影響の程度
- 従業員の過去の勤務状況や反省の態度
- 懲戒規程の内容
- 社会通念
本判例は、企業における懲戒処分を行う際の重要な判断基準を示すものとして、参考になると思われます。